事前調査
前回の記事にもあった通り、私はポールダンスをやってみたいと思っている。
ポールプリンセスというアニメに影響されたことに加えて、銀座で実際にポールダンスを間近で見て、なおさらやってみたくなったのだ。
劇場版ポールプリンセスも公開となる。
どうせなら公開前にポールダンス体験を済ませておきたい。
きっと、劇場版をより楽しめることだろう。
というわけで、先日ポールダンス体験をしてきた。
ポールダンスは始めようと思えば簡単だ。 本格的なレッスンならまだしも、初回の体験だけなら格安で申し込める場合が多い。 もちろん体験レッスンはたいがい初心者歓迎を掲げているので、一部の伝統芸能のように閉ざされているわけではなく、いつでもオープンだ。 とはいえ、やはりポールダンスのレッスンに初めて行くというのは勇気がいる。 私もなかなか踏ん切りがつかず、都内のさまざまなレッスンスタジオを調査して初心者歓迎な感じのところを探した。 とはいえ、だいたいのスタジオが初心者でも丁寧に教えてくれそうな雰囲気だったので、逆に1つに決めるのが難しかった。 結局は体験レッスンをやっている時間帯を見て、一番行きやすいところを選んだ。
他の判断要素があるとすればインストラクターくらいだろうか。事前にどういう人か調べておくのも選ぶ上でのひとつの手だ。 まぁ、これも行ってみないと合うかどうかわからないだろうし、どこも親切に教えてくれるだろうから結局は「行きやすくて日程が合うところ」が重要なのかもしれない。
あとこれは勇気を出す方法の話になるが、誰かを誘って行くのありだろう。 1人で何かを始められたらそれはいいことだが、やはり心細いものだ。 私も1人で行くのに抵抗があったので友人を誘って行くことにした。
いざ、ポールダンス
レッスン当日、調べた住所にあるビルへ足を運ぶ。 その場所は居酒屋のビルが並ぶ通りの中にあり、注意深く見なければ通り過ぎてしまうほどだ。 普段街を適当に歩いていると「このビルの上の方では何やってるんだろう?」と素朴に思うことがあるが、今回のポールダンス教室のように意外とそこらへんのビルに面白いものは埋もれてるのかもしれない。
そんなことを考えながらビルの階段を登る。 目的の階のドアを開けると、片側が鏡張りの一般的なダンススタジオ風景が目に入る。 普通と違うのは6本ほどのポールが並んでいるというところだ。 ポールは床から天井まで伸びており、その高さは3mちょいくらいだろうか。 早速、先生と挨拶し着替えとヨガマットなどの準備を済ませてレッスンが始まる。
先生は気さくでフレンドリーな感じで少し安心した。 ポールプリンセスきっかけで興味を持ったと話すと、それきっかけで来た人は初めてだという。 おいオタク、ポールダンス始めろよ!
ほぐす
どんな運動も最初はストレッチだ。 ヨガマットの上で一般的な柔軟を全身にわたって行っていく。 この時点で普段しないようなポーズをするので、少しだけ痛い場面もあった。 脚を前後に開くストレッチ(フォックスの下スマッシュ)は特に痛かった。 体が柔らかいわけでもないので、完全に脚を開くこともできない。 ただ同時に効いているなという感覚もあり、これを毎日続けたら体がめちゃくちゃ柔らかくなりそうだなとも思った。 ポールダンスは身体の柔軟性を使ったトリックが多いので、他のダンスなどの運動よりもストレッチの重要性は高いのかもしれない。 じっくり時間をかけ体もほぐれたところでさっそくポールを使ったレッスンが始まる。
歩く
いきなりポールに登ったり回ったりするのではなく、まずはポールの周りを歩くことを目指す。 まず、ポールの左側に少しスペースを空けて立ち、右手でポールの上の方を掴み、右足からポールの周りを歩く。 1,2,3,4,5と掛け声と共に決まった歩数でくるっと元の位置に戻る。
ここで教えられたのは顔の向きだ。ぐるりと歩いて周る間、顔は正面を向いたままにしなければならない。 当たり前だが、その名の通りポールダンスはダンスだ。 魅せることが第一原則にある。 確かに、俯いたり別の方向を向いているよりも正面をじっと向いたまま周った方がダントツで美しく見える。 ただポールの周りを歩くだけでも、美しさを追求しようとすると全身に神経を使う必要があり奥深い。 顔の向きだけでなく、背筋の姿勢、手足の指先、歩くときの足運び、挙げればキリがない。 この細部が上手くなってくると、鏡越しの自分がなんだか美しく見えてくる。奇妙なものだ。
ある程度できるようになってきたところで、いよいよポールを使って回るレッスンに移る。
回る
よくポールダンスと聞いて思い浮かべるのは「スピン」だろう。 私自身、ポールダンス体験に期待していたものは回り方であり、先生に「次は回ってみましょう」と言われた時はさすがにテンションが上がった。 実はちょうどポールプリンセスのポールダンスレッスン講座の動画に、今回私がやったベーシックスピンが紹介されている。 私がレッスンでどういうことをしたか知りたければ、これを見るのが手っ取り早い。
今回教えてもらったスピンはベーシックスピンとバックスピンというもので、ベーシックスピンは自分の向いている方向に回るもの、バックスピンは後ろ向きで回るものだ。 回るといっても使うのは スピニングポール(ポール自体が回転する) ではなく スタティックポール(固定されたポール) を使うため、あまり回転できるイメージができない。 しかし、事実目の前では先生がお手本としてクルクルとスムーズに回っている。なんとも不思議で理屈がわからない。
本当に自分でもできるのか?と思いつつ、以下の通り回り方をレクチャーしてもらった。 まずポールの周りを歩いた時と同じように距離を開けて右手でポールを掴む。 そして、そのポールを掴んだ右手と一直線になるように左足を伸ばす。小島よしおのオッパッピーに近いかもしれない。 体重はポールの反対側にかけていて、ポールを持つ右手が引っ張られる感じだ。 その状態のまま右脚をコンパスの針のようにして左脚をくるりと回す。 いや、回すというよりかは、身体を傾けるとそのままの体重移動のまま勝手に回るといった感じだ。 そのまま一定以上回すと軸にしていた右脚がポールに当たってしまう。そこでその右脚の膝を曲げ太ももとふくらはぎをポールに絡ませて体を浮かせる。 そうすると、あとは最初の勢いのままポールを中心に身体が回転する。これがベーシックスピンになる。
後ろ向きに回るバックスピンの場合は、説明が難しいが最終的に左脚でポールに絡みつくことになる。 いずれにせよ腕と脚でポールとつながり、あとは体重移動で生まれるモーメントを使って回転するだけだ。 言われた通りやってみると、あっという間に目の前の景色はくるりと移り変わる。どうやら回ることができたようだ。
ただ、手とポールの間の摩擦が難しい。 当たり前だが、固定されたポールを強く握った状態では身体を回転させることはできない。 そのため、ポールを掴む強さを調節し、摩擦を減らして滑るようにずり下がりながら回るということになる。 これが上手くいくと面白いように回る。 何度か実際に回ってみると、なるほど、身体で”理屈”がわかってくる。 難しそうに見えたが、初めてでも意外と回転自体はできる。
しかし、美しく見せるということを考えるとまだまだ足りない。 先生に何度も言われたが「腕を伸ばすこと」「回る時につま先を伸ばす」ことが大事らしい。 確かに、素人は力むようなことをすると足首や腕を曲げてしまい不格好な見た目になってしまう。 頭ではわかっていても、最初は考えることが多くてなかなかできないものだ。 そして、あとあと気づくのだがポールに接した太ももなどの部位にちょっとしたアザができる。 スピンの時にポールとの摩擦に晒されていたわけだから、さもありなんと言ったところだ。
まだまだ見るに耐えない見栄えだが、”ポールダンス”らしい回転技をできるようになったのはとても満足度が高い。
登る
ここからは回るのではなく、ポールに登るレッスンだ。 具体的に言うとポールによじ登ったまま手を離して停止するという難しそうな技を教えてもらう。 手を離すのでポールと接するのは脚と胴体のみということになる。 始める前はどうやってポールにくっつけて止まれるか理解できないものだ。 ポールはハシゴのように垂直に体重を乗せられる場所なんてない。つまり、摩擦だけで停止するわけだ。
まず、右足の左側と右膝の左側あたりを使ってポールを挟みロックする。 次はポールの上の方を掴んで引き寄せ飛び上がる。 そのまま左足もポールくっつけ、これで身体が地面から離れることになる。 この状態で手を離すと両足の摩擦だけで支えることになるが、さすがにそれはキツイ。 なので、右肩をポールの前に入れて肩から胴体にかけてのラインもポールに密着させる。 あとは両腕を伸ばせば完成。両脚と右肩で全身を使ってポールを掴むような感覚でなんだか不思議な気持ちだ。
ポールに掴まって止まるだけならもっと楽な方法はあるだろうが、手も足も伸ばした状態を維持し美しさを目指すということを考えると合理的な姿勢だ。 初めてでも一応このポーズで停止することができたが、思った以上に全身に負担がかかってしんどい。数秒が限界だ。
以前銀座でポールダンスを見た時は足だけでポールと1つになっていた人を見たので、なおさらその凄さを再認識する。
踊る
最後はポールを使った振り付け?を教えてもらう。
先生の振りを真似する形で身体を動かしていくだけだが、ポールがあるだけで想像以上に多種多様な動きができる。 両手でポールを掴み一瞬両足を浮かしたり、ポールに脚を添えたり、回る登る以外にもポールダンスの世界は広がっていることを知る。
特に多い振り付けがポールを片手で掴み、その腕を軸にして身体を回転させるようなものだ。 言葉で上手く表現できないが、手首をひねった状態でポールを掴み、手首のひねりを戻すようにして身体をくるんとさせる感じだ。 ポールダンスといえばポールを中心に回転するものというイメージがあったため、腕を軸にした回転を知れたのが大きな発見だ。 これもまた掴むものがあるからこそのポールダンス特有の振り付けだろう。 ポールを掴み固定できるからこそ、腕や脚、胴体すら回転の中心軸にできるのだ。
ある程度振り付けが身に付いたら、音楽をかけてそれに合わせて振りをする。 先生の真似をしているだけではあるが、音楽がつくとやはり「踊っている」感覚があって楽しい
運動の最後にもう一度ストレッチをしてクールダウン。 こんな感じで私の初めてのポールダンス体験は終わった。 振り返ってみると色々体験できて充実感が高いひとときだった。
その後
ポールダンス体験を終えた翌日、普段使わない筋肉や関節を使っていたからか、身体中が痛いこと痛いこと。これを書き始めたのは体験2日後なのだが、まだまだ痛い。 日頃の運動不足が祟ったのだろうか?いや、おそらくこれは誰でもそうなるやつだ。毎日走ったり筋トレしたり頑張っていたところで、今回使った部位へのダメージが軽減されるとは思いえない。
そして、腕や脚のポールに触れていた箇所はうっすらとアザできる。 今回の初心者向けの易しいレッスンでもアザが増えるなら、本格的にやってる人は相当酷いことになっているんだろうなと思う。 実はこのアザをポールダンサーの間では「ポールギャラクシー」や「ポールキス」と呼んでいるようだ。 そういう呼び方があると知ると、うっすらと色づく自分の腕に愛着が湧く。 一般的に見苦しいものであるアザと美を追求するポールダンスの不調和をほぐすように愛称を付けるのはなんだか素晴らしい文化だなと思った。(このアザの名称を覚えておくといいことがあるかも)
たった1度、ポールダンスのレッスンを受けただけだというのに、少しだけ世界が変わって見えてくるものだ。 一度回り方を知ってしまうと、街で見かけるあらゆる柱で回ってみたくなってしまった。 (ご安心ください。標識登ったり回ったりしてませんよ)
なにより、ポールプリンセスへの解像度も格段に上がった。ポールダンスがどう難しいのか、どう楽しいのか、そこらへんがわかると見え方も変わってくる。 苦しそうにポールにしがみついていたヒナノ達の努力を身をもって感じたと同時に、その努力の延長線上に高難易度のトリックがあるということもわかった。 つまり、魔法みたいに見えるポールダンスの裏側にある物理法則を身体で感じ理解することができた、といったところだ。 そして、それを理解するにはやはりポールダンスを体験する他ない。本当に体験に参加することができてよかった。
他の気付きとして、リメインの歌詞がある。 南曜スバルのキャラソンであるリメインの歌詞に「この手を軸にして」「私を軸にして」があるが、ずっとポールダンスにおいて唯一の「軸」はポールだと思っていた。
しかし、実際に歩いたり、登ったり、回ったり、踊ったりするとポールを掴むという行為が起点であり軸であることに気づいた。 特に、最後にやった音楽に合わせての振り付けは、あらゆる動作がポールを掴んでいる方の腕を軸に身体を回転させていた。 スピンをする時もまず自分の「右腕から右脚」という軸で回転することが起点になり勢いをつける。 もちろんポールという軸がなければ自身という軸を作ることはできない。 しかし、決してポールダンスはその唯一の軸にすがるのではなく、自身をも確固たる軸にして回ることもできる。 別に歌詞の全体の解釈が変わったという話ではないが、ポールプリンセスへの解像度が上がる体験だった。
実はこの記事を仕上げている時点で既に劇場版ポールプリンセスを見終えている。 感想はここでは控えるが、やはり今回の体験は大きかったと再認識できた。 ポールダンスシーンも見え方が変わってくる。知らないスポーツのスーパープレイより、知っているスポーツのスーパープレイの方が興奮してしまうものだ。
もしまだ劇場版ポールプリンセスを見る予定がない人は見てほしい!…なんてことは言わない。
この記事をここまで読むような人は既にポールプリンセスに出会っているか、今後もっと良いかたちでポールプリンセスと出会う人に違いないからだ。
ただひとつ言えることは、「なにか1つの題材を大きく扱う作品」を見る上でその題材についてあらかじめ見識を広めたり、影響されて行動を起こしたりするのはとても有意義だということだ。
理由はここまでで書いた通り、その作品への理解がより深まるからだ。そもそも「何かを始めること」そのものが素晴らしいことではないか。
ぼっち・ざ・ろっく!を見てギターを始め、BIRDIE WING -Golf Girls' Story-を見てゴルフを始めるように、ポールプリンセスを見てポールダンスを始めるのも全然おかしくない。
ポールプリンセスのテーマは一貫している。様々な過去を持つキャラクターが新しい軸を手に入れて、決して離さない。そういう話だ。
ポールダンスはハードルが高いように思えるかもしれないが、その門は老若男女問わずいつでも開いている。 なにせ私でも始めることはできたのだから。