2_wEiライブに参加した話 -Trillとfiction-

8 beat Story♪というコンテンツのアルミ(CV野村麻衣子)、ミント(CV森下来奈)の2人組ユニット2_wEiのライブに行ってきた話。

ライブ前の話(飛ばしてOK)

ライブ会場の最寄り駅の元町・中華街から地上に出ると、大きな門が見える。 誰でも「ああ、ここから先が中華街なんだな」とわかる親切なつくりになっている。 開演まで時間があったのでその門をくぐり適当に店を見て回ることにした。

私は目に入る看板から「刀削麺」の文字を探していた。 というのも、この日、私は刀削麺が出てくる夢を見たもので、なんでもいいから刀削麺が食べたい気持ちだった。 良さそうな中華料理屋を見つけて入店、すかさず刀削麺セットを注文。 しばらくして出てきた刀削麺をひとくち食べて、私は気づいた。 どうやら刀削麺の夢を見るほど、私は刀削麺の味が大好きってわけではないようだった。 よくよく思い返すと私が見たのは刀削麺を食べる夢ではなく、刀削麺を削る様子を眺める夢だった。 私にとって刀削麺の本質は製法とその過程を眺めることにあったのだろう。 確かにあの生地がシュッシュッと飛んでいく様は見ていて楽しい。 結果はどうあれ、夢というのは曖昧で非現実だあるにも関わらず、現実の行動に影響を与えてしまうものだ。

こんな感じで腹ごしらえを済ませ、心踊らせながら意外と駅から遠い今回の会場「横浜ベイホール」へと向かった。 チケットの発券を忘れてしまい走ってセブンイレブンへ行くなどおちゃめな一面を見せつつも、なんとかライブ会場に足を踏み入れることができた。

2_wEiのライブについて

昨今はライブはオンラインでも配信するものが増えてきている。 エビストも例に漏れずこれまでオンラインと併催、もしくはオンラインオンリーのライブを開いてきた。 しかし私が参加した 「2_wEi Special LIVE This is a “TRILL STORY”」 は現地のみでの開催となった。 このライブイベントは8 beat Strory♪というコンテンツのユニットの1つ、2_wEiによるものだ。 2_wEi以外のユニットでは、ついこの前にB.A.Cという宗教じみたユニット(言い方ァ)によるオンラインオンリーのライブが開催された。 そのB.A.Cのライブでは一般的なオンラインライブという概念を壊す凝った演出のものだったが、その話は今回は割愛。

そんなオンラインライブを見た上で、今回は逆に現地だからこそ得られる体験ができた。

楽曲、演出の話

さて、今回のセトリを振り返ってみよう。

  • Start the War
  • Heroic
  • Inheaven
  • Bite a bit(昼の部)
  • Pendulum
  • MIЯROR
  • Numb
  • REGALIA(夜の部)
  • Heart 2 Heart
  • UNPLUG
  • Be alive
  • Pain-pain
  • Keep it Trill

1曲目は「Start the War」 会場中に突き上げられた無数の拳と共に戦いは始まった。 声が出せないという違いはあるものの、「Start the War」で終わった2ndライブで見た景色の続きが始まったようにも感じた。 最初から会場の一体感と熱量は、しばらく現地ライブに行けずに鈍っていた私の身体に「ライブ」というものを思い出させるには十分すぎるものだった。 去年の2/22のライブでは最後に歌唱されたこの曲だが、今回は1曲目に持ってきたのがとても晴れ晴れしく、そして清々しい。 2_wEiはマイナスからゼロに立ち帰ることを成し遂げた。 そして、今はスタートラインから出発することができるという2nd Finalからのアンサーに当たるような曲順を感じた。

「Heroic」「Inheaven」とさらに会場は熱気に満ち溢れ、私も他の観客も、この会場にいる証を刻むかのように激しく手を振った。 既に2_wEiと自分が互いに向き合う空間がそこにはできあがっていて、それはある種の対話だった。 昼の部ではここで印象的なイントロから「Bite a bit」の時間が始まる。 やはり虎牙ミントの甘く鋭く、そしてどこか不安定さを感じる魅力的な歌声をこの曲は最大限に引き出していると思う。 サビ前で指に口を当て「Shhhh…」と入れるブレスも前回通り入れてくれたのも嬉しい。

そのまま「Pendulum」からの「MIЯROR」と休む暇なく我々の"暴れ"衝動を駆り立て、脳はひたすらに揺らされる。 MIЯRORは観客との掛け合い、いわゆるコールが含む箇所があるが、その時の私はそれをマイナスと捉える余裕はなかった。 今考えるとあの時に声を出せたらもっと楽しめたのかな?とかどうしようもない"たられば"を考えてしまう。 それでも、ライブ会場にいた私にとっては血沸き肉躍る瞬間であり、それが何よりも「真」なのだろう。

興奮が最高潮に達したまま次は「Numb」 イントロの悲哀あるピアノと青いレーザーも相まって雨の中にステージで立ち尽くす2人が見える。 前半のブチ上がる展開から切り替わった瞬間であり、今回のライブの中で印象深い曲のひとつだ。 夜の部ではこの後で「REGALIA」が入る。 あまりにも悲痛な歌声に思わず涙してしまう1曲だ。 会場のオタクもさっきまで振り回していたその手を下ろて、ただ佇んで聞き入ってた。もちろん私も例外ではなかった。 現地参戦にはこういった静の一体感があることを改めて思い出す。

そして、「Heart 2 Heart」「UNPULUG」と次第に多動を促す流れを取り戻していく。 「Be alive」「Pain - pain」とライブが終わりに近づいていると感じる哀愁漂う展開になってきた。 Pain - painでは事前に客から集めたWOWの声を流すという演出が使われた。 無意識にオタクの声というものをライブ体験の要素として捉えていたようで、ここでオタクたちの声を聞き、どこか欠けていたピースを見出せた気がする。 運営側も今できることで如何にして"ライブ感"を作り上げることができるかという試行錯誤しているのだろう。 と言っても、私は別に音声を送ったわけではない。 完全に自分の話になってしまうが、観客の大勢という集合に溶け込みたいのでどうしてもこのような企画には参加しづらい。 最終的にMIXされるとしても、自分の声を送るにはやはり抵抗がある。 もし音声を送っていたらまた別の感覚(ある種の当事者意識あるいは優越感)が生まれるのだろうかと想像したりもするが、この抵抗感は私に掛かっている呪いのようなもので今後も解けないものだろう。 少なくとも会場中に響き渡るオタクの声は1年前のライブの雰囲気に近づけるひとつの要素にはなっただろう。

最後には新曲のKeep it Trillがついに披露された。 今までの2_wEiから正統進化したようなかっこいい曲調は最高に盛り上がるし、歌詞は昨今の情勢を反映しているのか、傷ついても世界に立ち向かい闘う意思を感じるものだ。 情勢を反映しているというより、むしろ情勢が2_wEiの歩んだ絶望に近くなったというべきか。 この曲はなんといっても途中に入るラップパートが大好きだ。 治安の悪いワードでまくし立てている様は、クソッタレなものへの想いを代弁してくれているようで気分がいい。 そんなラップパートの爽快さが2_wEiにはあるし、それがライブで映える。

その後2_wEiはステージから捌けてライブは終了。 …になったのは昼の部のみ。夜の部ではもう1曲披露された。 誰もいないステージを目の前に余韻に浸っているとそこに大型のモニターが運び込まれる。 そして、虎牙優衣の声が流れ始める。 「たまには幸せな夢を見てもいいんだよ」 そんな風な虎牙優衣の言葉によって曲は始まった。 本当の最後の曲は「fiction」だった。 モニターには2_wEiと虎牙優衣の3人が仲睦まじく触れ合う場面が映る。 以下のアナザージャケットはこの時モニターに映っていたイラストを切り貼りしたものだ。

やってくれたな、そうきましたか、と思わず頭を抱えた。 周りには反射的にうめき声を上げる者やひっそりと溢れ出す涙を拭う者もいた。 我々観客は虎牙優衣が既にいないことを知っていて、目の前に映っているものが夢に過ぎないこともわかっている。 その現実との乖離に心が痛くなりつつも、幸せそうな顔に安らいでしまう気持ちもある。 そんなひとときだった。 (後のエビストの配信番組の情報によると歌唱部分は生だったらしい?) ここの詳しい話は後述するとして、各楽曲の話は以上。

そして、これも毎度のことながら、会場を彩る照明やレーザー演出は縦横無尽の大活躍だった。 激しい曲はもちろん、Numbのようなしっとりめの曲の魅力も引き出せるレーザーの表現力に思わずため息が出た。 このような特効は後ろの方の席から見ると見やすくてとても映える。 見る場所で感じ方が変わるのも現地ライブの良さだろう。 オンラインライブでは何を見るか、誰を見るかといった要素はほぼ管理されているが、現地なら座席という制約がある代わりに先述のメリットがある。 後述のMCの話とも繋がるが、今回のライブは「現地ライブ」というものを思い出させ、その良さを噛みしめることができた機会になった。 これほど昂るライブ体験は久しぶりだった。

MCの話

今回のライブでもステージ上で一貫して2_wEiは2_wEiの姿で立ち続けていた。 MCでも声優としての挨拶はなく「声優がキャラを演じている」という認識を観客から取り払われるよう徹底している。 この徹底した演出が2_wEiのライブの特色のひとつであり、観客の心を動かす大きな要因の1つだろう。

やはり2_wEiはMCでも魅せてくれた。 世相を反映したMCは2_wEiが現実と地続きな存在であることを感じさせる。 「世界を変えることはできない。画面の中に現実はない。お前はお前の人生を生きろ」 MCの内容を一部要約するとこんな感じになる。 観客が声を出せないことにも言及されたが、決してネガティブな方向ではなく「声が出せないなら全力で身体を使え」というものだった。 この1年の間、世界は変わってしまった。それでもできることはある。 絶望を乗り越えた2_wEiだからこそその言葉には説得力がある。

1人ではもちろん、2_wEiですら世界をどうすることもできないという話も出てきた。 それでも、2_wEiは我々の心に革命を起こすことはできる。 2_wEiがMCで強調していたが、2_wEiの歌は他でもない「お前(観客)に向けて歌っている」ということ。 それはどこの誰かもわからない画面越しの人たちでなく、この会場に来た我々に向けたものだった。 それはある種、オンラインライブを否定するような語りかけになっていた。 そして、特筆すべきはB.A.Cを揶揄するような発言も入れていたことだろう。 具体的には「無音の理想郷なんてない」といった発言、間違いなくB.A.Cを指したものだ。 ついこの間行われたB.A.Cのオンラインライブ後にこういったMCを入れて、巧妙に対立構造を描いている。 世界を塗り替えようとするB.A.Cの思想に先述の「世界は変えることができない」という話もつながってくる。 アプリのストーリー外のライブというコンテンツでキャラクターやストーリーの深堀りをするのもありがたい。 (というよりアプリのストーリーがなかなか来ないのでただ供給に飢えている感)

ライブを終えて - Trill と fiction -

全体を通して完成度の高いセットリストだったと感じつつ、やはり今回のライブの肝は最後の2曲にあると感じた。 特に最後にfictionを入れてくるという予想外の展開には鳥肌が立った。 この曲は2_wEiのライブセトリに入れるには余りにも異質な曲なので、正直披露されることはないと考えていた。 実際昼の部では披露されなかった。 ところが、夜の部では私の懸念を見事に回避した形でその曲はセットリストに組み込まれた。 画面の中でfictionを描きつつ、曲を流すというなかなか強引ではあるが最適解であろうこの演出はすんなり腑に落ちてしまった。 ステージ上で起きることがリアルである以上、そのままfictionを披露するのではなくモニターの画面という分離された夢の世界の中で描くというのは筋が通っている。

この演出及び曲順はKeep it Trillとfictionの2曲を収録するCDをライブ上で表現した結果なのだろう。 ライブを終えて、改めてそれぞれの曲について考えてみよう。 ライブのタイトルの元とも言えるKeep it Trillは「自分自身に正直にいろ」とかそんな意味になる。 Trill自体はスラングで「真実の」という意味を持つらしい。 この曲ではひたすらに現実に向き合い乗り越えることを歌っている。 この1年、嫌でも現実に向き合う、あるいは立ち向かう場面が多かっただろう。 どうしても現実での出来事と紐付けてしまうほどにこの世界は変わり果ててしまった。 その絶望が頭をよぎるからこそ、2_wEiのそのメッセージがより突き刺さる。 現地ライブの1つすら安心して開催できないこのご時世に、やっと辿り着けたこの横浜ベイホールで見た景色は正真正銘ここでしか味わえない。 そんな2_wEiの叫びに我々は共鳴せざるをえない。 限りなく当事者であり、共感者でもあった。 この感覚は前回の2_wEiのライブでも感じ取ったものであり、現実と地続きな虚構にこそ成せる見せ方だ。

そして「fiction」   この曲は2_wEiが見た夢に過ぎない。 エビストのアプリにある2_wEiサイドストーリーでこの曲と同名のエピソードがある。 そこではミントがアルミと虎牙優衣とピクニックへ行くというもので、ミントはその夢にもう取り戻せない現実を見出し悩まされた。 しかし、楽曲fictionは同じ情景を描きながらもどこか救いと癒やしが描かれていているように感じた。 同じ事実に対して絶望を見出したり希望を見出したりするように、きっと虚構にも絶望と希望がある。 ストーリー内の時の2_wEiではまだ救いを見出すことができなかったが、おそらく今の2_wEiには「fiction」を生きるためのひとつの糧とし捉えることができたのではないだろうか。 我々が2_wEiに対して共感や昂ぶりを感じていればいるほど、fictionが2_wEiにとってどれほど救いだとわかる構造なのかもしれない。 アプリのストーリ―も合わせて、ひとつの虚構がもつアンビバレンスな感情を上手く描いていていると感じた。 総合して、今回のライブは2_wEiというコンテンツの自己言及でもあり、我々にとって2_wEiがどういう存在かを再認識できる機会にもなった。

おわりに

以上のように2_wEi(あるいはエビストというコンテンツ)は1つのライブの中で正真正銘本物の「現実と虚構」の対比を見せるという芸当をやってのけた。 なかなか他のコンテンツでは見られない挑戦的な見せ方だろう(少なくと私は他の類似コンテンツで見たことはない) 現実を展延し虚構を作り出し、虚構を信じて現実を作り上げる。そういった相補性を享受して生きていくことがTRILL STORYであり、2_wEiという存在そのものなのではないかと私は思う。

なんの因果か、私はこのライブが終わって次の朝7時にシン・エヴァンゲリオンを見に行った。 インプットが大渋滞状態であまり良くないが、これはこれで昂ぶるものもある。 この記事ではネタバレなので言及しないが、シン・エヴァと今回のライブと繋がる箇所が少しあってシンクロニシティを感じてしまった。 きっと「3/7~3/8」は一生忘れらない日になるだろう。 これほど"虚構と現実を等しく信じられる"ことに感謝した2日間はなかなか無いだろう。 この2日間を虚構と現実記念日にしないか?

毎回心を強く揺さぶるライブを見せ続ける2_wEiは本当に凄いし、その体験をリアルタイムに追えていることが嬉しい。 ありがとう、2_wEi。そして、8 beat Story♪ 最後に公式でアップロードされたライブの様子を紹介。エビストはこういうことしてくれるからいいね。

(それはそれとしてハニプラのライブが恋しい)

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